欧米諸国のビール減税制度について(2005年11月号)

宮下酒造株式会社
社長 宮下附一竜

(1)はじめに
平成15年4月に「ビールに係る酒税の税率の特例の創設」ということで、地ビール製造者に対し参入促進及び創業期における経営基盤の強化に資する観点から、3年間の期間限定で、販売数量200KLまでの範囲内において20%の酒税の軽減が実現することになり、現在実施されています。 そして、その3年の期限が平成18年3月31日に迫ってきています。来年の通常国会において期限を延長していただかないとこの制度は消滅してしまいます。

今日の地ビール業界の現状は、ほとんどが中小零細企業であり、その経営基盤は未だ脆弱であり、経営は一層大変厳しい状況が続いています。 この特例制度の主旨である創業期における経営基盤の強化は未だ達成されているとは思えません。 大手ビールメーカーの市場独占化を防ぎ、地ビール産業の発展によって地方経済の振興と多様なビール文化を維持しようという「地ビール」の存在意義は不変であると考えます。ぜひともこの特例制度の延長をお願いする次第です。

ところで、こうした小規模製造者に対する減税制度は日本だけの特殊な制度なのでしょうか。いえいえ、むしろ世界の常識ということができるほど各国にこのような減税制度があります。 もはやWTO(世界貿易機関)においてこの問題が取り上げられることはないと思われます。 そこで、簡略に各国の制度をご紹介したいと思います。

(2)北米の減税制度
アメリカ合衆国においてビール製造者に対する連邦ビール税の減税制度が初めて作られたのは、1976年で238、000KL以下の生産者に7、100KLまで1バレル当たり(3.785L)9ドルを7ドルに減らす制度でありました。 その後、1990年ブッシュ大統領は連邦ビール税を1バレル当たり18ドルに増税した時に、同じく7、100KLまでは7ドルに据え置いています。

1999年には約1,500社のビールメーカーが減税の対象になり、小規模メーカーの活性化に役立っています。 また、1990年カナダよりこのような減税制度はカナダの製造者に不公平であると、ガットに提訴しましたが、このときは強制力がなくアメリカに無視されました。その後、現在ではカナダにおいても州税において、州によって異なるが生産数量に応じて減税が実施されています。

(3)ヨーロッパの減税制度
ヨーロッパにおいては、イタリア、フランス、スペインなどのワイン圏(農業政策的配慮によって、ワインにはほとんど酒税はかかっていない)を除いたビール圏の諸国(オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、ドイツ、ギリシャ、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル、イギリスなど)において「規模別減税制度」が恒久的制度として実施されています。

例えば、ドイツにおいては、「規模別減税制度」が1972年より実施されており、1993年の改正により、500KL以下は50%の減税率とし、100KL増えるごとに減税率は縮小するようになっています。1,000KLでは40%、2,000KLでは30%、4,000KLでは25%の減税となり、20,000KLまでは減税されます。 イギリスにおいては、ごく最近の2002年6月より減税制度が実施され、300KLから6,000KLまでの規模に減税制度が行われています。

(4)日本にも同じような減税制度の確立を
日本においては、1989年以来「租税特別措置法第87条」によって、清酒、焼酎、果実酒などの1,300KL以下の製造者に酒税の軽減措置が行われています。これは、酒税の改正に伴う激変緩和のために作られた臨時的な措置であると財務省は説明していますが、延長に継ぐ延長で2008年3月まで約20年間続いていくことになります。もしこの制度が無くなれば、中小零細な酒類業者に与える影響は甚大で、廃業者が激増することは必定であります。

これからの日本の酒税制度は、酒税確保のみの政策から、消費者利益の確保と酒類業の健全な発達を考慮した新しい政策理念のもとに作られていかなければなりません。今般、酒税制度の抜本的改革が叫ばれていますが、この機会に、欧米諸国において実施されているビールの減税制度のような制度を、すべての酒類中小製造者を対象とする恒久的な制度として早急に確立し、支援体制をつくるべきであると考えています。

しかし、諸外国においても簡単にこうした制度ができたのではなく、長年の要望運動が実現した結果であります。中小零細酒類業者が一致団結して政府に要望していくことが肝要であると思います。

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