酒と文化変容について(2001年3月号)

宮下酒造株式会社
社長 宮下 附一竜

 2月のトピックスでは、「和酒」(日本文化)が「洋酒」(西洋文化)に駆逐されているのではないか、というテーマでお話しましたが、 その背景に日本文化の変容があるのではないかということを今月のテーマとさせていただきます。

 まず、「文化の酒」と「文明の酒」の定義をしときたいと思います。 「文化の酒」とは、特定の地域で伝統的手法によって造られる個性豊かな酒のことであり、 「文明の酒」とは、広い範囲の地域で近代的技術によって造られる普遍化された酒をいいます。 「和酒」が「洋酒」に駆逐されるということは、「文化の酒」が「文明の酒」に押しまくられ日本民族の酒である日本酒が敗退しつつあるということを意味します。

 ところで、こうした現象の背後には、日本の文化の変容があると考えます。 すなわち、戦後の日本が急速な経済発展をとげ、先進産業国に追いつこうと努力してきた影の部分として、日本の文化や社会の伝統を失い、破壊してきたのではないかということです。 経済発展段階の変化に応じて、社会経済システムは変質していくものですが、同時に文化的、歴史的伝統との摩擦や反発を生み、また、融合を繰り返すことになり、日本文化は変容していくことになります。

 明治以来の日本経済発展の歴史は、日本の文化的、歴史的伝統(日本文化)が、西洋文明に対して、柔軟に対応し、自己変容をとげてきた姿であるともいえると思います。 そして、これからの日本社会がこれまでと同じように変化に柔軟に対応していくとすれば、日本文化のアイデンティティは失われ、日本の伝統的な文化的価値との整合性がとれなくなるのではないかと心配されます。

 こうした流れの中で、日本の文化や伝統に支えられてきた日本酒の飲酒習慣が消えていく流れにあるといえるのではないかと思います。 日本酒の衰退の大きな原因の一つに日本文化の後退があるのではないかということです。 従って、日本酒の再生のためには、日本の文化や伝統を再評価し、再発見していくことが大切になってきます。 この意識変革の運動を日本文化のルネッサンス運動として盛り上げていくことが、長い視点で考えるとき必要なことだとおもいます。

 来月は日本酒のもつ価値構造について、お話させていただく予定です。

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