梅花の宴(2014年2月号)

宮下酒造株式会社
社長 宮下附一竜

 我が家の窓から、白と紅の梅の花が咲いているのが見えます。

 ところで、田中善正先生にいただいた「万葉の植物」によれば、万葉集には梅の歌が119首載っているそうで、桜の歌43首、桃の花8首より多く、萩に次いで多いそうです。梅は中国が原産で、記紀や風土記には出てこないので、梅が日本で一般に栽培されるようになったのは奈良時代より少し前だと推定される。そして、このように梅の歌が多いのは、中国詩文の教養を持った当時の文化人が、新しく中国から入った梅を珍重し中国にならって梅花の宴を催し歌に詠んだためと考えられると書かれています。

  酒坏(さかづき)に梅の花浮かべ思ふどち(同志)
         飲みての後(のち)は散りぬともよし (8-1656)

 この歌は、大伴旅人の妹である大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)が大宰府において梅花の宴で詠んだ歌です。歌の意味は、酒坏に梅の花を浮かべて親しいどうしが酒を飲み交わした後は、梅は散ってしまってもよいということです。大宰府は今日まで梅が有名ですが、奈良時代に酒宴の中に女性がいて、酒を酌みその上に梅の花びらを浮かべて飲もうと呼びかけている。まことに中国の香りのする、文化的、風流な歌ではないかと思われます。

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