お客様のニーズの変化との競争(2003年12月号)

宮下酒造株式会社
社長 宮下附一竜

 最近セブン-イレブン会長の鈴木敏文氏の本「商売の創造」を読みました。そのまえがきの冒頭において、鈴木氏は次のように書かれています。

 「われわれにとっての最大の競争相手は、同業他社・他店ではありません。世の中の変化、お客様のニーズの変化こそが最大の競争相手なのです。この変化への対応力を失ったとき、いかなる過去の強者、覇者といえども破綻は免れません。」

 さて、私も長い間酒類業界で仕事をさせていただいておりますが、この言葉が身に沁みて感ぜられる今日この頃です。昭和44年に大学を卒業とともに、家業である酒屋を継ぎましたが、当時岡山県には約180社の造り酒屋がありました。現在は免許を持っている業者が70社、実際に酒を製造している会社は約40社程度に減少しています。また、問屋も地場問屋が少なくなり全国問屋に吸収されています。酒販店も本年9月よりの酒販免許の自由化により大きな変化に見舞われることは必死だと思います。

 ふと振り返れば、ついこの間まで同じ酒業界で一緒に仲間として付き合ってきた友人がいないという思いとともに、何ともいえない寂しさと空虚感に襲われるときがあります。

 このように地方の酒類業者は大きな潮流として衰退の流れの中にあると思いますが、この大きな流れは、まさに同業・他店との競争に敗れて衰退したというよりも、私たち酒類業者が免許制度に守られてぬるま湯につかっている間に、世の中が変化し、取り残された結果のように思われるのです。

 世の中の変化、そしてお客様のニーズの変化に対応する努力をしてこなかったことがこのような結果をもたらしたとすれば、鈴木氏の言葉を「頂門の一針」として深く反省することが、新たな出発の原点になるように思えるのです。

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