酒の効用について(2001年4月号)

宮下酒造株式会社
社長 宮下 附一竜

 3月のトピックスでは、日本酒の衰退の原因は、「日本の文化や伝統に支えられてきた日本酒の飲酒習慣が、日本文化の後退とともに消えつつあること」にあるのではないかというテーマでした。今月は、酒の効用について考えてみたいと思います。

酒の効用

酒の効用 <この図は醸造科学研究所 代表取締役 西谷尚道先生の書かれた「人と酒の関わり」より引用させていただきました。西谷先生には、日頃ご指導賜っています。>

 この図のように、酒の効用は、大きく分けると、心身的効用と社会的効用になります。すなわち、酒を飲んで生理的に酔うことに伴う効用と、文化的伝統行事の中でシンボリックなものとして利用される社会的効用があります。

 今日の問題点は、日本酒の果たしてきた社会的効用が、日本文化の後退という形でその効用を失いつつあるのではないかということです。例えば、結婚式、地鎮祭、祭典や式典などのシンボルとして利用されてきた日本酒の効用が低下しています。 また、日本の食文化と切り離すことのできなかった日本酒ですが、食文化の洋風化とともに飲酒の機会が減っています。 人間関係の円滑化においても、畳の部屋で燗酒による宴会の減少が見られますが、これは、お互いの付合い方が大きく変化してきているからだと思います。

 これらの現象を見れば、日本酒の社会的効用が低下するにつれて、日本酒の商品としての価値が縮小しているのではないかと思われます。

 一般的にいって、商品の価値は品質や価格などの実体のある「モノ的価値」と、商品そのものが生み出す意識上の価値としての「意味的価値」に分けることができます。 そして、今日のように成熟化した市場においては、とくにこの「意味的価値」の効用が減少すればするほど、商品としての価値が低下するように思えるのです。

 どうも、私たち日本酒メーカーは、日本酒の果たしてきた社会的効用の大切さを過少評価してきたように思われます。酒が売れないのはより良い商品をより安い価格で提供できないからだという考え方に重点がおかれ、日本酒のもつ「意味的価値」の大切さを軽視してきたように思えるのです。 このことは、日本酒の再生のためには、もう一度日本文化の見直しが必要であり、日本文化のきちっとした継承の中において、日本酒の飲酒習慣を再構築することが必要であるように思います。

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