ケインズかシュンペーターか(2010年7月号)

宮下酒造株式会社
社長 宮下附一竜

 日本経済は、1990年代以降20年に亘って停滞を続けている。1990年から2008年の間に、日本のGDPは1・1倍になっているが、アメリカは2・5倍、中国は12倍に成長している。「日本の失われた20年」といわれるが、まさしく日本経済は停滞しているといえる。なぜ、日本の経済は長期的停滞におちいってしまったのであろうか。そして、このような停滞からどうすれば脱出できるのであろうか。ケインズとシュンペーターの経済学をもとに考えてみたい。

 「日本の失われた20年」の間、日本政府は、財政支出を増加させることによって有効需要を増大させ、景気回復を図るというケインズ政策をとり続けてきた。現在も膨大な財政赤字の中、財政支出というカンフル注射を打ち続けている。その結果、国債と地方債の長期債務残高は800兆円を超え、日本のソブリン・リスク(政府債務の信認危機)が問われ始めている。 政府の財政支出によって、景気回復を図るというケインズ政策は限界に達しているといえるのではないか。

 そこで、シュンペーターの登場となる。シュンペーターは、昔からあるモノやサービスに対する需要は必ず飽和するという。そこで、イノベーションによって、新しいモノをつくり出したり(プロダクト・イノベーション)、新たな市場を見つけ出す(需要創出型のイノベーション)などによって、資本主義経済の成長を図ることができるという。

 私は、日本経済の活性化は、シュンペーターのいうように、企業家と企業行動のあり方にかかっていると考えている。井原哲夫氏は「日本はなぜ停滞してしまったのか」という本のなかで、「日本の停滞の根本原因は、勝負の時代にあって企業が勝負をさけるようになったことにある」という。「リスクを冒しても、将来の利益を追求するために、外部から資金調達を行い、積極的に投資を行う企業家精神が後退してしまったことが停滞の原因だ」という。シュンペーターは、「馬車をいくら繋いでも鉄道にはならない」と表現しているが、イノベーションという「非連続的な変化」によって経済を発展させることが今日必要なことだと考えられる。

 これからの日本経済の成長のためには、財政出動というマクロ政策に頼るのではなく、シュンペーターのいうイノベーションによって日本の経済を成長させていくことが、長期的停滞から脱出する方策となるのではないかと私は考えている。

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