日本酒のでき方

▼ 日本酒のでき方
「日本酒は、お米を発酵させて造られる醸造酒」。ところが、その造り方については、あまり知られていません。 発酵とは、酵母が糖分を食べてアルコールを出すこと。 でもお米には糖分はありませんから発酵しません。 従って日本酒は、まずお米を糖分に変え、そこに酵母を加えて発酵させるという、きわめて巧妙・複雑な仕組みによって造られるのです。 その製法を知れば、日本酒への興味はもっと深まるに違いありません。 「一麹、二酛、三造り」といわれる日本酒造りを簡単にご紹介しましょう

日本酒は、原料の白米を蒸してこうじを造り、このこうじで蒸し米を糖化しながら酵母を培養して酒母というものを造ります。 これを段仕込みしてもろみを仕立て、並行複発酵法で高いアルコール分のもろみを造り、搾って日本酒にする、ということになります。 難しそうですが、平たくいえば、「こうじで米のデンプンを糖化さえ、それを酵母の力で、アルコール発酵させたもの」。 こう覚えておけばまず及第です。

■ 精米・蒸し米
酒造りは、原料となる玄米を精米し、蒸すところから始まります。 蒸し米はこうじを造り、酒母、もろみの仕込みに使われます。

■ 麹
蒸し米に黄麹菌を植えてこうじを造ります。こうじは酒母、もろみに入れて米のデンプンを糖化していく役割を果たします。

■ 酒母(酛)
酒母は蒸し米、水、こうじに酵母を加えたもので、もろみの発酵を促す酵母を大量に培養したもの。 日本酒造りには、酔い酵母が大量に必要ですから、文字どおり「酒の母」といえます。

■ もろみ(造り)
いよいよ、この酒母にこうじ、蒸し米、水を加えてもろみを仕込みます。このもろみがやがて原酒となります。

■ 段仕込み
ここで日本酒造りの特徴である三段階に分けて仕込みをする段仕込みが行われます。 一日目は初添え。翌日は仕込みはお休み。酵母はゆっくりと増えていきますが、これを踊りといいます。 三日目に二回目の仕込み(仲添え)をし、四日目に三回目の仕込み(留添え)をして仕込みは完了します。 段仕込みは、雑菌の繁殖を抑えつつ酵母の増殖を促し、もろみの温度管理をやりやすくするための独特の方法なのです。

■ 新酒誕生
二十日ほどかけて発酵を終えたもろみは圧縮機で搾られ、酒と酒粕に分けられます。 搾りたての新酒は、ろ過、加熱(火入れ)され、そして貯蔵されます。 精米から、並行複発酵、段仕込みというとても複雑な工程を経て、約60日間をかけて、日本酒は誕生するのです。

● 磨き上げたお米が命。
普通私たちが食べるお米は、玄米を92~90%ぐらいに精米しますが、日本酒造りに使う場合、70%程度磨き、特定名称酒だと60~50%も磨き上げます。 これはよい日本酒造りの妨げになる外側のタンパク質や脂肪、灰分などを取り除き、中心部分のデンプンをより多く使おうとするために磨かれます。
さて、酒造好適米と呼ばれる、お酒を造るのに適したお米をご存知でしょうか。日本酒造りには、もちろん一般の米も使われますが、この酒造好適米も約15%近く使われています。
このお米は、米粒が大きい、タンパク質の含有量が少ない、水を吸いやすく糖化性がいいという特徴があります。また心白率が高く、蒸し米を長く冷却しておいても、もろみの中で溶けやすいなど、まさに日本酒造りにぴったりのお米といえます。

● 良水が銘酒を生む。
日本酒造りには、水がとても大きな意味を持っています。 洗米、仕込み、瓶詰め用と、原料米の重量の20~30倍の水が必要とされますが、中でも仕込みに使うと水、そして割水といって最後に加える水の質が重要です。 これには醸造用水といって、特別の水質基準を満たした水が使われます。
醸造用水は、味、におい、濁りがないことは絶対条件ですが、こうじ菌や酵母菌の発育に必要なミネラル分が適度に含まれており、酒質劣化の原因となる鉄分やマンガン、有機物が少ないことなども大切な要件となります。

● 最後は、人の技術が決めて。
日本酒造りには多くの技術者がかかわります。その技術者集団を酒造技能者(蔵人)と呼び、その長が杜氏といわれる最高責任者です。 杜氏は、リーダーとして酒造りの各過程の専門技術者たちを統率し、酒造りの全責任を負います。つまり、良いお米と良水を得て、最後は杜氏の技が日本酒の味を決定するというわけです。
日本酒造りが寒造りになって以来、各地の酒蔵は冬場の働き場として次第に定着していきました。そうした中で、杜氏になる人は一家の長やその地方の有力者が多く、その人が中心となって知人や縁者を集め、 蔵で働く人々を組織化していくようになりました。そして酒造りの技術を研磨していくことで、次第にその集団独自の技術を誇るようになっていったのです。 それが今日、全国各地で形成されている「○○杜氏」と呼ばれる技術者集団なのです。 毎年、酒造りの季節になると、杜氏は蔵人を組織し、蔵元へ赴き、十月からほぼ半年の間、同じ蔵で寝食をともにしながら、日本酒造りに励みます。

「日本酒読本」 日本酒造組合中央会発行 より